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[初版:2003年3月15日 更新:2008年2月8日]

ビールをつくるとは

このページでは、醸造人がふだんビールをつくっていて気づいたことなどを書いています。ビールのつくり方を記しているものはすでに世の中にたくさんあります。詳しく知りたい人はリンクと参考書のページを見てください。

もくじ

ビールってどうしてできるの?
ビールの原料はナニ?
  1. 麦芽
  2. ホップ
  3. 酵母
  4. その他(まだ、何も書いてありません)
ビールのつくりかたは?
  1. 洗うということ(2003-08-31)
  2. 麦汁をつくる
  3. ビールができる(まだ、何も書いてありません)

ビールってどうしてできるの?

デンビールでは日本地ビール協会さんの主催する「ジャパン・ビアカップ」で金賞をいただいたことがあります。そのとき、醸造人は7才の娘とこんな会話をしました。

醸造人「こんどねぇ、父のつくってるビールが金賞とったんだよ」
むすめ「父、スゴーイ! ねぇ、ビールってどうやってつくるの?」
醸造人「ビールの作り方はね、まず、麦芽を65℃くらいのお湯のなかで糖化して、
    ろ過した麦汁にホップを入れて煮沸するんだよ」
むすめ「・・・」
醸造人「・・・」
むすめ「わかんなーい」
醸造人「ごめん。もう一度聞いてもらえます?」
むすめ「うん」
醸造人「あのね、まず、麦芽っていうものをお湯にいれるんですよ。
    そうするとどうなるかっていうとジュースみたいにあまーくなるんですよ。
    そこにホップっていうものを入れて煮るんですな。それから、
    冷まして酵母っていうちっちゃい生き物を入れるとビールになるんですよ。」
むすめ「ふーん。じゃあ、ビールって酵母でできるんだ」

子供というのは侮れませんね。いみじくも言われております。「ブルワーは麦汁をつくり、ビールは酵母がつくる」と。子供は直感的にそういうことを理解するようです。醸造人はまだまだ未熟なので、ややもすると自分がビールをつくっているかのような気になってしまいますが、そんなときはこの会話を思いだして戒めとしたいと思っております。

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ビールの原料ってナニ?

日本のビールの原料は、麦芽、ホップ、酵母、水、それと法律で認められた糖質やデンプンです。くだものやジュースを入れたり、麦芽が少なくてほかのものが多かったりすると発泡酒と呼ばれます。

酵母と水はどんなお酒でもはいっているのでとりあえず置いておくとすると、麦芽とホップがビールをビール足らしめているもの、ということではないでしょうか。醸造人などは、麦芽でデンプンを糖化してつくったお酒はみんなビールといってもいいような気がしますが、国によって、あるいは、人によってもいろいろな見解があるようです。ドイツの有名な(?)法律「ビール純粋令」では、麦芽とホップと酵母と水しか使ってはいけませんということになっているようですが、ベルギーではくだものでもスパイスでも入れた方がおいしくなると思うものは何でも(?)入れるようです。

原料のお話なので、それぞれについて書いてみます。何も書いていないところは今後埋まっていく予定です。すでに書いてある項目にも追加していく予定です。

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1.麦芽

麦芽ってどんなもの

醸造人は麦芽をつくったことがありません。ですから、つくり方はよく分かりません。日本酒やワインの世界では、ビールの麦芽に相当する麹やブドウ(ちょっと違うかもしれませんが)をつくる人とお酒をつくる人がおなじことが多いようです。でも、ビールでは麦芽をつくる人とビールをつくる人がぜんぜんちがうことのほうが多いようです。おそらく、理由は麦芽の保存性にあるのだと思います。麦芽の場合数カ月くらい平気で保存できますから、流通にのせるのもつくり置きしておくのも簡単なのだと思います。ちなみに、デンビールでも、麦ではなく、麦芽を買って使っています。(麹やブドウではそうはいかないでしょう。お酒をつくるそのつどつくらなければならないものだと思いますので)

ものの本によると、麦芽とは麦を水にひたして少し発芽させたあと乾燥したもの、ということのようです。発芽といっても、芽が殻の外にはでていません。根っこもとってありますから、見たところただの麦とそれほど変わりません。でも、殻に傷をつけてお湯に浸してみると、殻のなかで芽が3〜4 mmくらい伸びているのがよく分かります。(いわゆるベースモルトのお話です。カラメルモルトは色が変わっているのでただの麦ではないことはすぐに分かります。ブラックモルトにいたっては言われなければもとが麦だったということさえ分からないほど見た目がちがいます。デンビールのレストランのビールサーバーの前にそれぞれ飾ってありますから興味のある人は見てみて下さい)

食べてみてもおいしくないです。殻は堅くて、いつまで噛んでいてもなくなりません。中身は粉っぽくてほとんど味がしません。つまり、そのまま食べるものではない、と言うことですね。(ミュンヘン麦芽や色のうすいカラメル麦芽はすこし香ばしいので味は悪くありません。でも、殻はやっぱり気になります)

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とてもたくさんの種類

麦芽ってどんなもののところで書きましたが、麦芽はつくるときに乾燥という工程がはいります(たぶん、ワインや日本酒にはない工程ですね)。そのとき熱を加えて乾燥させます。熱の加え方をいろいろ変えることで、色の濃いものうすいもの、酵素の力が強いもの弱いもの、デンプンが糖になりやすいものなりにくいもの、というようにいろいろな麦芽ができるようです。

熱の加え方と一言でいいましたが、そこには、乾燥する前の麦芽の水分、乾燥する時の温度や時間、乾燥装置の熱の伝わり方など、醸造人が思いつくだけでもいろいろなことがあります。そういう条件を少しずつ変えれば数えきれないくらいの種類の麦芽ができるでしょう。

麦芽メーカーのカタログを見てもそんなにたくさんの種類は載っていませんが、実際には、同じ名前の麦芽でもいろいろなバリエーションがあるということになります。

ビールの場合、原料のバリエーションが豊富なので、でき上がったビールも色や香りや味わいのバリエーションが豊富なのだと思います。

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とてもたくさんの種類(その二)

一つ前のお話で、「数えきれないくらいの種類の麦芽ができるでしょう」と書きました。でも、ある程度は分類して、一応名前を付けておかないと不便です。実際、使う目的によって分類したり、作り方によって分類したりしていますので、どんなものがあるのかご紹介します。

使い方から

使う目的によって分類するときは、ベースモルト(base malts)とスペシャルティモルト(specialty malts)という言い方をします。

ベースモルトというのはその名の通り基本となる麦芽ということで、デンプンやタンパク質、それを分解する酵素群、ビタミンやミネラルや脂質などの微量栄養素、麦汁を漉しとるための麦の殻、を十分に持っていなければいけません。つまり、これさえあればビールは作れるけれど、これがなければ始まらない、という麦芽です。ですから、どんなスタイルのビールでもたくさん使います。造る人の考え方にもよると思いますが、麦芽だけでビールを作る場合、全体の8割を下回ることはほとんどないのではないでしょうか。

ところで、酵素とかデンプン、タンパク質、ビタミンというようなものは、良く発酵する麦汁を作るためになくてはならないものです。ということは、ベースモルトというのは、麦汁をビールにしてくれる酵母のための麦芽だと言ってもよいかも知れません。

それに対して、スペシャルティモルトはビールに特別な香りや色やコクをつけるために使います。つまり、ビールのおいしさを広げるために使うもので、これは人間のための麦芽なのだと思います。種類はたくさんありますが、使う量は少しです。

作り方から

麦芽は、作り方の違いからも分類されています。大きく分けるとペールモルト(pale malts)、キルンドモルト(kilned malts)、カラメルモルト(caramel malts)の三つです。さらに、例えばペールモルトといっても作り方を少しずつ変えることで性能の異なるいろいろな麦芽が作られています。そして、それぞれ違う名前で呼ばれています。同じようにキルンドモルトやカラメルモルトにもとても多くの種類があります。それぞれどんなものなのか順番に書いてみます。

  1. ペ−ルモルト

    麦芽というのは、麦に水を与え、すこし発芽させた後乾燥して作られます(そのときの麦の様子の写真が[Ballantine's] 稲富博士のスコッチノート(5)製麦-2に掲載されています)

    発芽、つまり命の営み、が始まると麦粒の中でいろいろな酵素が作られて、貯蔵用のデンプンやタンパク質を分解しながら生長を始めます。そのまま水を与え続けると、芽と根がどんどん生長してデンプンなどを使い尽くしてしまうので、麦芽にするときは芽が殻を破る前、麦粒が柔らかくなったところで乾かしてしまいます。乾いてしまうと麦としては死んでしまいますが、それまでに作られた酵素と使われなかったデンプンは残ります。この酵素とデンプンなどの蓄えを十分残すようにして作られた麦芽をペールモルトと言います。ペール(pale)とは色が薄いという意味です。この麦芽は酵素の力を十分残すために低い温度で焙燥されます。結果として麦芽の色が濃くならず薄いままなのでこの名で呼ばれているようです。

    酵母のための麦芽としての性能を十分持っているので、このタイプの麦芽はベースモルトとして使われます。

    製品としては、ペールエールモルト(Pale Ale malt)とかピルスナーモルト(Pilsener malt)あるいはラガーモルト(Lager malt)という名前のものがいろいろな製麦会社(sales maltster)から出ています。それぞれ、作り方によって微妙な違いがあるようなので、どの製麦会社のどの製品を使うか、ということはビールを造る人にとっては思案のしどころです。

  2. キルンドモルト

    ペールモルトとほとんど同じようにして麦を麦芽にした後、高い温度で焙燥して(kilned)作られます。そうすると色が濃くなって、特徴的な香りが生まれます。色も香りも、焙燥するときの温度や時間を変えることで数えきれないくらいのバリエーションが作れます。代表的なものを色の薄い順にあげれば、ウィーンモルト(Vienna malt)、ミュンヘンモルト(Munich malt)、チョコレートモルト(Chocolate malt)、ブラックモルト(Black malt)などでしょう(他にも、Aromatic malt , Amber malt , Biscuit malt , Brown malt など多くの種類があります)

    いろいろなスタイルのビールでスペシャルティモルトとして使われます。でも、ウィーンモルトやミュンヘンモルトの様に酵素の力も十分残っている麦芽はベースモルトとしても使われます(例えばデンビールの黒鍬麦酒はミュンヘンモルトをベースモルトにしています)

    キルンドモルトは、作り方からも想像がつくように、同じ名前のものでも製麦会社ごとにバリエーションがとても豊富です(場合によってはロットごとの違いも無視できないかもしれません)。ですから、どの製麦会社のどの製品を使うか、ということは、ペールモルトの場合以上に、思案のしどころです。

  3. カラメルモルト

    カラメルモルトを作るときも、まず、麦に水を与えて発芽させます。その後ペールモルトやキルンドモルトでは60℃くらいで乾燥させて水分を除きますが、カラメルモルトではその替わりに、水分を50 %程度含ませたまま1時間半から2時間程度65〜76℃で加熱します(このことを"stewing(=シチューにする)"というそうです)。こうすると麦粒の中で糖化酵素が、麦汁を作るときのように活性化して、デンプンをどんどん糖分に分解して、麦芽の中身がどんどん溶けていきます。ちょうど良いくらい溶けたら、あとは温度を上げて乾燥します。その間にいわゆるカラメル化が起こり、色が濃くなって、この麦芽特有のおいしい味わいになります。乾燥が終わって温度を下げたときに麦芽の中身が光沢のある固まりになるので、クリスタルモルト(Crystal malt)とも呼ばれています。

    この麦芽は、いろいろな色や香りや味わいがあるので、多くのスタイルのビールでスペシャルティモルトとして使われています。酵素の力が残っていないので、ベースモルトとしては使われません。

    カラメルモルトもバリエーションが豊富です。stewingや焙燥の温度や時間を変えることで、キルンドモルトと同様(あるいはそれ以上)に、いろいろなものが作られています。おもに色の濃さで名前をつけて区別していますが、どの製麦会社のどの製品を使うか、ということはやはり思案のしどころです。

  4. 小麦麦芽あるいはウィートモルト(Wheat malt

    大麦以外の麦は麦芽にできないか、あるいは麦芽にするのが難しいようです。そんな中で小麦は、むずかしいながらも麦芽にすることができる数少ない麦の一つです。

    作り方から見ると、ペールモルトの一つだといえそうです。でも、使い方から見ると、ベースモルトとスペシャルティモルトの中間のような使われ方をします。色は薄くて酵素力もデンプンも十分持っているのでベースモルトとして使えますが、殻を持っていないのとタンパク質が多いことから、この麦芽だけでは麦汁をうまく採れません。ですから、ベースモルトとして使う場合でも、単独ではなく、必ず大麦のペールモルトと一緒に使われます(小麦麦芽は、多くても全体の75 %までと言われています)

    小麦麦芽には、ビールの泡持ちを非常に良くする、という性質があります。そのため、泡持ちを良くするために少し加えるという使い方もされます。この場合はスペシャルティモルトとして使われていると言えるでしょう。

    小麦麦芽を使うことで有名なビールにドイツのバイツェン(Weizen)というスタイルがあります。バイツェンのバナナのような独特の香りは、この麦芽とバイツェン酵母の組み合わせで生まれます。

参考までにウェブから

麦芽の名前としてよく目にするものはおおよそこんなところだと思います。製麦会社のウェブサイトを見ると、もっと多くの名前を見ることができます。醸造人が見つけた製麦会社の製品情報のページを紹介しておきます。

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2.ホップ

ホップってどんなもの

毎年地面からたくさん芽がでてきて、何かに巻つきながらグングンのびてくる植物です。8月ごろに可愛い毬花がつきます。ビールで使うのはこの花の部分です。ふつうは乾燥させたものを使います。ビールのスタイルやビールをつくる人の考え方の違いでいろいろな使い方があります。ランビックでは数年間保存したものしか使わないそうですし、キリンビールでは乾燥していないホップを使った製品を最近(2002年秋)出しています。

デンビールのレストラン(ホレフェスト)の玄関にも夏のあいだホップのアーチができています。目立つ花ではありませんが、鼻を近づけるとかすかにホップの香りがします。機会があったらぜひ一度見てみてください。デンビールのホップはゼネラルマネージャーのT氏が丹誠こめて育てています。興味のある人はホップのページもご覧下さい。

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いくつかの種類

ホップにはいろいろな種類があります。品種と産地と収穫年度で分けています(ワインづくりのブドウのようです)。そのほかにも使い方によってアロマホップとビターホップという分けかたもあります。ビールに苦味をつける成分と香りをつける成分はぜんぜんちがうものです。苦味のもとがたくさん入っているものをビターホップとして使うことが多いようです。香りが良いとされているホップは苦味のもとがあまりたくさん入っていないものが多いようです。

リンクと参考書に掲げたDesigning Great Beersという本のなかに50種以上の種類が書かれています。Saaz(ザーツ)とかEast Kent Goldings(イーストケントゴールディングス)とかNorthern Brewer(ノーザンブルワー)などが有名な品種ではないでしょうか。

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アロマホップのこと

ホップは、ビールに苦味をつけるためのものとして必ず使われます。それとは別に香りをつけるためにも使われます。これがアロマホップです。ホップの香りのもとは、わかっているだけでも250種類以上あるそうです。そして、品種がちがうとそれぞれの香りのもとが多かったり少なかったりします。ですから、使うホップによってビールの香りがいろいろにちがってくるわけです。

ビールを飲んだときに感じるホップの香りとして、Floral(Fragrant), Spicy, Citrus, Fruity, Herbal, European Hopという言いかたが使われています。言葉ではうまく説明できませんが、いろいろなビールを実際に飲んでみるとわかると思います。ホップの香りに詳しい人なら、使っているホップの品種までわかるかもしれません。開業間もない頃に参加させてもらったある研修で、アメリカ人の講師の人にデンビールのビールを飲んでもらったことがあります。そのとき彼は、香りをかいだあと一口飲んで「Saazを使っていますね」と言いました。大当たりでした(当時はアロマホップにSaazしか使っていませんでした。いまは、Hersbruckerも使っています)。

ビールを飲んでいるときにホップの香りというのはあまり話題になりません。醸造人もこの仕事に就くまでは、こんなにいろいろな香りがあるとは知りませんでした。でも、知ってしまったら後戻りできないくらい楽しいものです。まだご存じない方はぜひ一度試してみることをおすすめします。

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3.酵母

酵母ってどんなもの

顕微鏡で見てみないとよく見えないくらい小さな生き物です。400倍くらいの倍率でみると形がよく分かります。殻をむいたゆで卵というか餅米の粒というか透明の風船というか、なにかそんなような形をしています(醸造人は、とても愛らしい形だと思っています)。手足があって動くわけではないので、じっとみていてもそれが生きているという感じはしません。でも、たしかに生きていますから、毎日見ていると少しずつ様子が変わってきているのが分かります。新しい麦汁に入れてから一日ほどすると芽胞といわれる小さな芽をつけたものがいっぱい見られるようになります。つぎには、それが大きくなって、大きさのちがう風船が二つとか三つつながったようになったものが見られようになります(酵母の種類によっては十個以上つながるものもあります)。そしてそのあとは、風船がしぼんだようになったものも見られるようになります。

デンビールの発酵タンクには液面ゲージというものがついています。これは、細い透明のチューブですので、発酵の様子を目で見ることができます。発酵がはじまるとフツ..フツ..と泡が昇っていくようになります。しばらくするとフツフツになります。つぎの日にはポコポコザワワになります。そのあとポコポコになり、フツフツになって、フツ..フツ..となったあと、泡がでなくなってしずかになります。

醸造人はこの、フツフツとかポコポコザワワ、が好きです。なぜだかよくわかりませんけど、見ていて飽きません。

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どれくらいの種類?

ビール酵母の種類はどれぐらいあるのでしょうか。いろいろな名前の酵母が売られていますが、目でみた感じではちょっと区別できません(顕微鏡のような道具を使ってみても、むずかしいです)。匂いや味はどうでしょう。きれいに水で洗った酵母は独特の匂いと味がありますが、やはり違いはよくわかりません。麦芽やホップのようにはいかないようです。

生き物の分類というと学者さんのお仕事です。微生物学辞典(技報堂出版)という本から引用してみます。

ビール酵母には主発酵後期に凝集沈降する下面酵母(bottom fermenting yeast)と、発酵中に炭酸ガスの泡とともに液の表面に浮遊する上面酵母(top fermenting yeast)がある。...中略...。分類学上いずれも、Saccharomyces cerevisiaeである。しかし上面酵母を使用している間に、突然変異によって凝集性を持ち香味の優れたビールを生産できる下面酵母が生じ、その使用の定着したのが19世紀後半である。この下面酵母は上面酵母の変種として、従来のようにSaccharomyces carlsbergensisと呼ぶ方が良いとする研究者もある。上面酵母、下面酵母ともに細胞の大きさに大差はないが、発酵および生育の適温は前者が高く、後者は低い。...後略...。

学者さんたちは、ビール酵母はサッカロマイセス・セレビシエという一つの種類だと言っているようです。二つの種類と考えてもよく、その場合、もう一つはサッカロマイセス・カールスベルゲンシス(サッカロマイセス・ウバルム(S.uvarum)とも呼ばれています)でしょう、ということのようです。

では、ビールづくりをする人たちはどう考えているのでしょうか。つくる人たちにとっては、うまく発酵する温度はどれぐらいかとか、発酵のあいだどんな様子なのかとか、でき上がったビールはどんな味になるのか、といったことがとても気になります。そして、そういうことからみると大きく分けて三つのタイプがある、と考えています。一つはエール酵母、二つ目はラガー酵母、三つ目はバイツェン酵母と呼ばれています。エール酵母は20℃くらいでよく発酵して、華やかな香りが特徴です。ラガー酵母は10℃くらいでもよく発酵して、すっきりとした香りのビールになります。バイツェン酵母はエール酵母とよく似ていますが、ほかの二つのタイプにはない特有の香りをつくり出します。

同じタイプの酵母でも、つくり出す香りはいろいろです。どれくらい甘味を残すのかということや、酵母が固まりになりやすいかどうかといったことも違うものがいます。そういう違いはビールをつくる人にとってはとても大切なことなので、ちがう性質を持っているものには違う名前をつけて区別しています。ですから、ビールをつくる人たちはたくさんの種類があると考えています。

さらに、酵母というのは微生物ですから、環境にあわせて簡単に性質をかえてしまいます。どういうことかというと、どんな麦汁なのか、温度はどれくらいなのか、酸素は多いのか少ないのか、発酵をはじめるときにどれくらいの酵母がいたのか、というようなことが酵母の性質(香り、味わい、固まりやすさなど)を変えてしまうということです。それは、つまり、つくっている場所とか、人とか、季節などが違うと、酵母の性質がだんだん変わっていくことがあるということです。そうだとすると、ビール酵母には一つ一つ名前もつけていられないほどたくさんの種類がある、ということもできるかもしれません。

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4.水

水とは

水を分子式と言うもので表わすとH2O(エイチツーオー)となります。これは水の分子を表現したもので、水の中の大部分を占めているもののことです。大部分ということは全部ではないということです。水は、いろいろなものを溶かしたり、ほかのものと混ざったりする性質があります。たとえば川を流れる水や雨の水は、まわりの石や砂や空気に触れている間にいろいろなものを溶かし込んでいます。カルシウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、硫酸イオンのようなものや空気のなかのチッ素、酸素、二酸化炭素などです。そのほか、溶けているとは言わないけれど沈まないで水の中にただよっている目には見えないくらい小さい微粒子も混ざっています。たとえば、海の水は3%くらいがH2O以外のものだそうです。川の水ではH2O以外のものが海の水の百分の一くらいだそうです(0.03%=300ppmくらい)。ほとんどH2Oだけからなる水を超純水といいますが、自然界には存在しないようです。ですから、「水」と言ったときにはH2Oの中になにかが溶けて混ざっているものと言うことになります。(醸造人はまだ超純水というものをみたことがありません。どんな味がするのか一度飲んでみたいですね。)

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水にもいろいろ

おいしい水とまずい水、飲み水と飲めない水、というような区別は、水を手にした時にだれでもするのではないでしょうか。そういう違いというのは、H2Oのなかに混ざっているものが何なのか、また、どれくらい入っているのかということで決まってくるということになります。たとえば、おいしい水というのはこんな水のことだと言われています。

おいしい水の要件の一つとしては、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、ケイ酸などの無機元素であるミネラル成分が適度に含まれることが挙げられる。蒸留水のような純粋な水は本来味がなく、水に溶存するミネラルによって味を感じるのである。...中略...。ミネラルのなかでもカルシウムとマグネシウムの合計量を硬度と呼び、これが少ないと軟水、多いと硬水といわれ、おいしい水と感じるのは10〜100mg/Lである。日本の水は硬度が20〜80mg/Lの軟水であり、逆に欧州の水の硬度は200〜400mg/Lで硬水である。従って、日本の水は本来おいしい水であり、欧州の水はミネラルが多すぎて癖のある苦い水である。新 水とゴミの環境問題(TOTO出版)より引用

どうやら、飲んでおいしい水というのはH2O以外のものとしてはカルシウムのようなミネラル成分が溶けていて、しかもあまり多くないものということのようです。逆に海の水は飲めませんが、そのわけは塩化ナトリウムのようなものがたくさん入っているからでしょう。また、人間にとって毒になるようなものが入っていると、その量がわずかでも、飲んではいけない水になります。

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ビールと水

では、お酒をつくるときはどんな水が良いとされているのでしょうか。お酒を仕込むときに必ず水を使うのはビールとか日本酒のような穀物を使ったお酒です。麦芽も麹もどちらかというと乾いていますから水をたくさん入れてあげないと酵素も酵母もうまく働けません。つまり、水は大事な原料の一つと言うことです。ですから、使っている水のことが話題になるのもこういうお酒だと思います。逆にワインのように果物を使う場合は、果汁に水が十分含まれているので水のことはあまり話題にならないように思います。むしろ水を含めた気候風土全体に関心を持つ人が多いのではないでしょうか。

ビールの世界では、水が有名な銘柄がいくつかあります。一つはイギリスのバートン・オン・トレントというところのペールエールです。もう一つはチェコ共和国のピルゼンという町で造られるピルスナーと呼ばれているビールです。その他、ロンドンやダブリンのダークエール、ミュンヘンのダークラガーがその土地の水の特徴を生かしたビールとして有名です。

バートン・オン・トレントのビール醸造用の水は、深い井戸から汲み上げられたものです。その水は、硫酸カルシウム(石膏)がとても多くて炭酸水素カルシウムがあまり入っていない水として有名です(永久硬水といいます)。飲み水としてはおいしくないかもしれませんが、ペールエールというスタイルのビールをつくるのにとても良い水だと言われています。

ピルゼンの水は、バートン・オン・トレントとは反対に、硫酸カルシウムや炭酸水素カルシウムのようなミネラル成分がほとんど入っていない水です。つまり、ピルゼンの水は軟水です。日本の水も軟水ですが、ピルゼンの水はさらに硬度が低いようです。そして、その水のおかげで、すっきりとしたおいしい黄金色のピルスナーが生まれたといわれています。

ロンドンもダブリンもミュンヘンも炭酸水素カルシウムを多く含む水があります。これは、バートン・オン・トレントとは違う種類の硬水で、一時硬水と呼ばれています。一時硬水は色の濃いビールを造るのに良い水だといわれています。

歴史的に見ると一時硬水と相性の良いダークエールやダークラガーがはじめにありました。18世紀よりも前の時代の麦芽は薪を燃やして乾燥させていたので、どうしても色の濃いものしかできなかったようです。色の濃い麦芽は少し酸性が強くなります。逆に一時硬水は少しアルカリ性です。この二つを組み合わせると仕込みや発酵のときにちょうど良いpHになります。当時の麦芽とヨーロッパのあちこちで手に入る一時硬水との組み合わせはどっしりとしたコクのあるビールを造るのにとても良かったというわけです。

その後産業革命がおこり、いろいろな技術が発展する中で麦芽のつくり方も変わってきました。そして、それまでよりずっと色の薄い麦芽を造ることができるようになりペールエールが生まれました。でも、生まれてすぐに人気が出たわけではないようです。ペールエールが広まるのは19世紀になってからです。当時インドと交易のあったイギリスですが、インドからイギリスへの便は荷物がいっぱいでした。ところがイギリスからインドへ向かう船はほとんど空っぽだったので、インドへの運び賃は安かったようです。そこに目をつけたビール会社がインドへビールを運んで大成功しました。そのビールがバートンの永久硬水を使った色の薄いペールエールだったのです。そのころイギリスで主流だったブラウンエールやポーターといったビールはインドまでの長旅には耐えられなかったようです。ところが、ペールエールは、その永久硬水のおかげでホップの苦味を十分効かせられたのと当時のほかのエールにくらべてずっと薄い麦汁(今あるビールの中ではむしろ濃い方です)を十分に発酵させて当時としてはドライなビールに仕上げられていました。そのため、インドまでの航海に十分耐えることができたということです。さらに、そのころ普及しはじめた透明のガラスのコップに注いだときの、それまでにはない色の美しさも手伝ってインドでは爆発的に売れました。その後、本国イギリスでも人気に火がつき、今や代表的なビールになったということです。

ピルスナーは一番最近生まれたビールです。ピルスナーの生まれたピルゼンには良質の麦とすばらしいホップ(ザーツ)と極めつけの軟水があります。ピルスナーが生まれる前のピルゼンのビールは上面酵母を使ったものでした。1840年、町の人々は自分たちのビールをもっと良いものにしようと新たな醸造所を造りました。そこに僧侶がミュンヘンから下面酵母を持ってやってきました。ついに役者は全てそろいました。1842年11月11日最初の樽の口が切られ、その後またたく間にピルスナーは世界中に広まり、今に到っているというわけです。

ピルゼンの成功をみた19世紀のミュンヘンの人たちもピルスナーのように色の薄いラガービールの醸造に挑戦しましたが、一時硬水を使っていた彼らはついに1895年ごろには諦めたということです。ラガービールを造ることにかけては経験も技術もあったミュンヘンの人たちでも、ただ水が違ったというだけでピルスナーをつくることに失敗したわけです。ただの水といえども、努々おろそかにしてはいけない、ということですね。

参考までに、有名な水のイオン組成をDesigning Great Beersという本から引用してみます。

有名な水のイオン組成(単位:ppm)
カルシウムマグネシウムナトリウム硫酸イオン塩素イオン炭酸水素イオン
バートン2942424801360
ピルゼン7225515
ロンドン50201008060160
ミュンヘン7518212060180

2003-07-10追記

ところで、水についてはあまりこだわらないビールもあります。バイツェン、バーレワインなどがそうです。こういうビールは麦芽の種類や使い方、酵母の種類など水以外のことが味を決めているので、水自体は軟水でも硬水でもそれぞれに良いビールができるようです。

また、バートンのペールエールやピルゼンのピルスナーにも水以外のユニークな特徴があります。ペールエールの場合は、バートンユニオンと呼ばれる独特の発酵方法があり、ほかの方法ではつくられない香りが生まれるといわれています。ピルスナーでは、麦芽の造り方がほかとは違っていて、ふつうより低い温度で乾燥したとても色の薄い麦芽を使っています。そして、こういう麦芽の特徴を上手く引き出すための工夫があります。

どうやら、ふさわしい方法とふさわしい材料が歩調をあわせたとき善いものが生まれる、ということのようです。

2003年5月25日放送の「所さんの目がテン」という番組でお茶をテーマにしていました。その中で、どんな水で入れるとおいしい緑茶になるのかということを紹介していました。結論としては硬度が20〜80mg/Lの軟水が良いということでした。硬度が低すぎる水や高すぎる水で入れるとおいしくないそうです。まさに日本でふつうに手に入る水が一番良いということです。緑茶と水のこの絶妙の関係というのは偶然ではなく、日本の水で入れたとき一番おいしくなるようにお茶の造り方が進歩してきたのでしょう。これもふさわしい方法と材料が善いものを生み出した例のひとつではないかと思います。

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水をいじる

ひとつ前のビールと水の中で、19世紀にはミュンヘンの水ではピルスナーを上手く造れなかった、ということを書きました。当時は水の中のミネラル成分を減らす良い方法がなかったのかもしれません。でも今は、水をいろいろにいじる(H2O以外の成分組成を変える)ことができます。

すでに溶けているものを減らすには、イオン交換樹脂(1935年発明 Adams,B.A.)とか逆浸透膜(1953年発明 Reid,C.E.)とか蒸留装置といったような特別の道具を使います。ですから、今でも、硬水を軟水にかえようと思うとちょっと大変な話になります。

炭酸水素イオンだけを減らすときにはほかの方法もあります。ひとつは、酸化カルシウム(生石灰)を入れる方法で、もう一つは、乳酸などの酸を入れる方法です。どちらの方法も硬水を軟水にするわけではありませんが、水のアルカリ度が高すぎる(炭酸水素イオンが多すぎる)ときには使われることがあるようです。

増やすのはそれより簡単です。増やしたいものを水に溶かすだけだからです。でも、ふつうに使えるものは塩('えん'と読みます)の形になっているので、カルシウムイオンだけとか硫酸イオンだけを増やしたいと思ってもできません。硫酸カルシウムを使ってカルシウムイオンを増やせば硫酸イオンも増えてしまいますし、塩化カルシウムを使えば塩素イオンが増えてしまいます。ですから、例えば、「ペールエールを造りたいからバートン・オン・トレントとまったく同じ水にしたい」と思ってもできません。

ということで、水を変える方法として一番簡単で、しかもよく行われているのは、軟水に塩を溶かして硬水にするということです。硫酸カルシウム(石膏)とか塩化カルシウムを使って永久硬水を作ったり、炭酸カルシウム(チョーク)を使って一時硬水を作ることができます。この方法では、例えばバートンと同じ水を作ることはできませんが、似ているものは作れます。もし炭酸水素イオンが入っていない水が手近にあれば、硫酸カルシウムを入れるだけでバートンの水にかなりよく似た水が作れるかもしれません。もともとの水の組成によっては硫酸マグネシウムと塩化ナトリウム(食塩)をちょっと足せばさらに完璧かもしれません。

デンビールのある愛知県安城市の水を調べてみました。安城市の浄水場の水質検査結果を見ると、カルシウムとマグネシウムが合せて35 ppm、ナトリウムが15 ppm、塩素イオンが10 ppmくらい入っているようです。硫酸イオンや炭酸水素イオンは今のところ法律で定められた分析項目ではないので値はわからないそうです。

たとえば、この水1リットルに、硫酸カルシウム二水和物を86 mgと炭酸カルシウムを100 mgと食塩を100 mg加えると、ビールと水の表にあるロンドンの水に近くなります(Ca 60 mg , SO4 48 mg , CO3 60 mg , Na 38 mg , Cl 62 mgが追加される)。硫酸カルシウムと塩化カルシウムと炭酸カルシウムを使えばミュンヘンの水に、または硫酸カルシウムだけでバートンの水に近づけられるかもしれません。水をいじるとビールの味がどうなるか、いろいろ試してみたくなりますね。

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いじるとどうなる?

水が違うと何が変わるのか書いていませんでした。水をいじってミネラル成分の入っている量を変えると、麦汁をつくるときに働く酵素の働き方や、麦汁を食べてビールをつくるときの酵母のふるまい方が変わります。ということは、ビールの味も変わるだろう、ということです。それと、ミネラル成分によってはそのものの味が出てくることがあります。それぞれのミネラル成分の役割や味への影響をリストにしてみました。

カルシウム
水の硬度を決めているものです。カルシウムは酵素の働き方や酵母のふるまい方にいろいろに関わっています。増やすと、麦汁のpHを下げたり、糖化酵素を安定化したり、煮沸のときに余分なタンパク質などの凝集を促進したり、酵母を凝集しやすくしたりといったようなことが起こります。5〜200 ppmの間なら悪い影響はないといわれています。
マグネシウム
水の硬度を決めている二番目の元素です。これも酵母にとってはなくてはならないものです。いろいろな酵素が働くためにもなくてはならないものです。10〜30 ppmの間ならビールの味を引き立たせるといわれています。それより多いと収斂性(舌がキュッとなるような感じ)の苦味が出てきます。125 ppmを超えるとお腹をこわすそうです。
ナトリウム
2〜100 ppmの間ならビールの味を引き締めるようです。多いと酵母に毒として働きます。
炭酸水素イオン
水質分析表でアルカリ度として載っているものです。増やすと水のpHを高くします。多いと苦味が強く感じられます。
硫酸イオン
ドライでしっかりした味わいを生み出します。500 ppmを超えるととても強い苦味を感じるようです。この苦味がペールエールなどでは大事な味わいの一つです。
塩素イオン
ビールの味わいを高めるようです。甘味を強く感じるようにしたり、ビールを日持ちさせたり、濁りを少なくしたりするそうです。薄いビールでは1〜100 ppm、濃いビールでは350 ppmまで入っていても問題ないといわれています。

水をいじると、なにかが変わった、という感じがします。ミネラル成分には香りはありませんし、麦芽やホップほどたくさん入っていないのでどちらかというと分かりにくい変化だと思います。でも、間違いなく味わいが変わります。

余談ですが、カルシウムはほかのミネラル成分とはちょっと違う振舞いをするようです。ミネラル成分は水の中にあるだけではなく、麦芽の中などにも入っています。そういうものが麦汁を造るときに溶け出てきたり沈澱したりします。また、発酵している間に酵母に取り込まれたりほかのものにくっついたりします。ですから、多くのミネラル成分は、水からビールになるあいだに増えたり減ったりします。でも、カルシウムだけははじめの水から最後のビールまで入っている量がほとんど変わらないというデータがあります。参考までにデータを引用します。

水と麦汁とビールの中のイオン濃度(単位:mg/L)
Ca2+Mg2+Na+K+Cl-SO42-PO43-HCO3-
Water169365561472050165
Wort1651271015504503388460
Beer1681131104404203305200

Briggs,et al.,Malting and Brewing Science,vol.1,207

どうしてなのか、ということは醸造人にはわかりませんが、カルシウムにはなにか特別の働きがあるのかもしれません。

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5.その他

たとえばこんなもの

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ビールのつくりかたは?

ビールは今から5000年以上前からつくられているといわれています。造り方は時代とともに変わってきていますが、基本的なことは変わっていません。昔も今もビールを造るということは、麦から糖分を上手に取り出して酵母に発酵してもらう、ということです。

前半の、麦から糖分を取り出す、というところは麦汁を造る工程のことです。「ビールってどうしてできるの?」の所でも触れましたが、これは人の仕事です。ですから、科学技術の進展に合せて変化してきました。後半の麦汁をビールに変える「発酵」は酵母の仕事です。ですから、人にできることはあまりありません。昔も今も人にできるのは、酵母のために環境を調えてあげることくらいでしょう。

大昔から人は麦汁づくりの仕方を工夫してきました。何のために? おいしいビールを飲むために。醸造人も勉強しています。何のために? もちろん、おいしいビールを造るために。ということで、このコーナーではデンビールでの試みを中心にビール造りのいろいろな仕方について及ばずながら書いていこうと思っています。

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1.洗うということ

洗うということはどんな物をつくるときにもとても重要な仕事です。これがちゃんとできないと、どんなに良い材料を使っても、どんなに優れたテクニックを持っていても、思い通りのものはできないと思います。ですから、造り方の話の最初の話題にしたいと思います。

洗うとは

洗うというのは、あってはいけないものを除くということだと思います。そして、「あってはいけないものとは何か」ということが解れば、「どうやって洗えばよいか」が解るでしょう。

あってはいけないものというのは、何をつくるかによって違ってくるでしょう。たとえば、半導体集積回路にはほんのわずかの不純物もあってはいけないそうです。ですから、洗浄するときに使う水までも、とても純度の高いもの(超純水)が必要だそうです。

ビールを造るときにあってはいけないものは、ビールを醸す酵母以外の微生物です。招かれざる微生物が入ってくると結果として、濁り、酸味、オーバーカーボネーション、表面のカビ、オフフレーバー、その他わけの分からない現象をもたらします。それを防ぐためには、微生物とはどんなものなのか、ということを知らなければならないと思います。

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敵を知る

先ずビールを造るときにいてはいけない微生物とはどんなものなのか考えてみます。

どこにいる?

微生物は、目には見えないくらい小さな生き物です。目で見ただけでは、いるのかいないのかわかりません。でも、実際には微生物はどこにでもいます。人の体や着物にもくっついています。食べ物にもテーブルの上にもお風呂の中にもいます。空気の中にもただよっています。

どこから来る?

脚や羽はありませんから自分で行き先を選んで移動することはありません。彼らは、何かに付着しながら移動します。たとえば、手についている微生物は、その手で触るもの全てに付着して、手で触ったところ全てに広がっていきます。

塵やほこりに付着したものは、空気中を塵といっしょに漂いながら移動します。そして、落ちた先で活動のチャンスを待ちます。

それからどうなる?

生き物ですから、食べ物を食べて成長したり増えたりします。彼らの食べ物にはいろいろなものがあるようですが、ビールをつくるときに気になる微生物の食べ物は、麦芽などの原料、麦汁、ビールです。そして、麦汁やビールの中に入ると、それを食べて代わりにビールを不味くします。

もし食べ物がなければ多くの微生物は生きていけません。でも、中には食べ物がなくても死なないものがいます。彼らは次に食べ物にありつくまでじっと待っています。

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己を知る

敵である微生物の様子が分かりましたから、それを除く方法を考えてみます。

  1. 先ず、食べ物となる麦汁やビールをよく洗い流します。食べ物がなければ、活動できません。
  2. 次に、殺菌します。洗っただけでは、全ての微生物を除けません。でも、生き物ですから、殺すことが出来ます。
  3. そして、殺菌がすんだものは、密閉しておきます。人や空気に触れると、また、生きた微生物が入ってくることになります。

言葉で書いてしまうととても簡単なことです。でも、実際の作業は、体や衣服にいろいろな微生物をぶら下げている人間が行ないます。そして、人間を完全に殺菌することは出来ません(そんなことをしたら人間も死んでしまうでしょう)。ですから、いつもいつも自分のしたことが引き起こす結果を考えながら作業しなければいけません。たとえば、きれいに洗った器の上をまたぐようなことをすれば、衣服についていた汚れや微生物が落ちて中に入るかもしれません。また、麦芽を粉砕した後は辺りや衣服に粉といっしょに微生物がいっぱいついています。そんな状態で洗浄や殺菌作業をしても十分な効果は期待できないでしょう。つまり、自分自身を知らなければならない、ということです。

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2.麦汁をつくる

ここからビール造りの前半戦、麦汁造りのお話です。

麦汁を造るために最初にしなければならないことは麦を育てることです。次に、収穫した麦を麦芽にします。それから、出来上がった麦芽を使って麦汁を作ります。1.麦芽のところで書いたように、デンビールでは麦芽は作っていません。そのかわり、麦芽を作っているメーカーから買っています。ですから、麦汁をつくるお話は、麦芽を手に入れたところから始めます。

麦芽を砕く(粉砕)

どんなふうに砕く?

麦芽は、先ず、粉砕してから水に入れます。そうしないと、殻が邪魔をしてデンプンと水が上手く混ざりません。よく混ざっていないままで温度を高くしてしまうと、デンプンがほとんど反応できないうちに酵素は熱にやられてどんどん力を失っていってしまいます。結果としては、とても糖分の少ない麦汁が出来てしまいます。これでは勿体ないので麦芽は必ず砕きます。

麦芽を粉砕するときに気をつけなければいけないことは、殻をなるべくそのまま残しながら砕くということです。先ほど書いたように、まったく無傷ではダメですが、ほんのちょっと割れているだけでも十分なこともあります(溶けの良い大麦麦芽の場合です)。逆に、一生懸命細かくしても良いことはほとんどありません。それどころか、殻を細かくし過ぎると、この後の麦汁を糖化液から漉しとる作業で大変なことになってしまいます。さらに、細かくすればするほど、殻からタンニンが出やすくなるのでビールの味が悪くなると言われています。溶けの悪い麦芽や小麦麦芽のように水に馴染みにくいものの場合は、中身はなるべく細かい方が良いです。

実際の麦芽の砕き具合は麦汁を漉しとる装置によって決まってきます。砕き具合の善し悪しは糖化液の漉しやすさに一番影響するからです。糖化液をろ過する装置には、麦芽の殻が細かいとうまく漉せないものや逆にある程度細かいほうが上手に漉せるものなどいろいろあります。ですから、装置ごとに一番良い砕き具合があることになります。そして、それが分かってしまえば、あとはいつも同じになるように粉砕装置を調整すれば良いわけです。

ところで、麦芽の粒の大きさや硬さは同じ種類の麦芽でもロットによってちょっとずつ違っています。種類によって砕き具合を変えることもあります。たとえば、デンビールではカラメル麦芽はかなり粗く砕きますが小麦麦芽はなるべく細かくします。ですから、デンビールでは麦芽の顔や粉砕されたものを目で見ながらそのつど粉砕装置を調整しています。醸造人の経験と勘を頼りに仕事をしているというわけですね。「それはちょっと心もとない」と思われたあなた! 一度デンビールのビールを飲んでみてください。そんなに捨てたものでもないかも知れませんよ。

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粉砕装置は?

殻をうまく残しながら麦芽を砕くにはローラーミルという装置が具合が良いようです。これは、高速で回転する二本のローラーの間に麦芽を通すとローラーに押しつぶされて殻が割れるというものです。ローラーの間隔を広げたり狭めたりすることで麦芽の砕き具合を調整することが出来ます。粉砕された麦芽を見るといろいろな状態のものが混ざっています。粉々になった中身、細かく割れた殻、半分に割れた粒、傷は入っているけど二つに分かれていない粒、無傷の粒などです。

デンビールで使っているものはローラーが二本のものです。実際のところなかなか具合の良い装置です。でも、二本しかローラーがないと麦芽の粒に大きいものと小さいものが混ざっている場合にちょっと困ったことが起きます。たとえば、小さいものに合せて粉砕してしまうと大きいものが細かくなり過ぎるし、大きいものに合わせると小さいものが無傷のまま素通りしてしまいます。デンビールではそういうときは、いくらか歩留まりが悪くなりますが、細かくし過ぎないようにしています。

最大限の効率を追求するような場合にはそれでは困るのでもっと精密に粉砕できる装置が開発されています。たとえば、大きなビールメーカーでは、四本とか六本のローラーと篩を組み合わせて、殻と中身と割れていない粒を篩で分けながら段階的に大きな粒から小さな粒までムラなく粉砕できる装置を使っているそうです。

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麦芽を溶かす(糖化)

麦汁を漉す(麦汁ろ過)

麦汁を煮る(煮沸)

ビールができる

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